商標は特許に比べ身近な知的財産だと思います。
特に登録商標に対しては何か特別なブランドを感じる人も多そうです。
確かに登録により無断で真似されないように法的保護を受けますが、決してそこに魔力があるわけではありません。
大切なのは商標はもとより、その背後にある業務上の信用そのものです。
その信用が商標の識別機能を通じて公衆に行き渡るのです。ここに登録の意義が見出せます。
本記事では、この商標の本質部分である識別力と、商標の登録要件を中心にやさしく解説していきます。
初心者の方でも商標登録の本当の意義を理解できるようになるでしょう。
商標の本質とは識別力~自社の商品・サービスにも着目!~

結論から言うと、商標の本質とは自社製品やサービスとの関係で識別力を発揮し得ること、です。
と、まぁ、いきなり難しいこと言ってスミマセン。
以下ではもう少し分かりやすく解説していきます。
とかく商標というと、商標(マーク)そのものが議論されがちですが、
まず注目すべきは、商標(マーク)を貼り付けようとする自社製品や、ネーミングにしようとするところの自社のサービスです。
これらを指定商品・指定役務といいます。
例えば、お客が製品を店頭で手に取ったとき、その製品(の包装)に描かれているマークを見て、「ああ、これはあの有名な××社製ものだ。安心だ。きっと良いものだろう、買おう!」などとなります。
或いは、「知らないブランドだな、大丈夫かいな?もしかして中○製?」などといった具合です。
もちろん、パッケージの隅に記載された「△△株式会社」や産地名なども参考になるでしょう。
ですが、先ずはマークをみれば、それでとりあえずは、有名なものは一発瞬時に分かるわけです。
要するに、お客にしてみると、商品それ自体だけではわからない(実際使ってみなければわからない)。
ですが商標(マーク)に信用が蓄積していれば、これを通じて安心して購入できるというわけです。
言い換えると、商品に対する信用度を、そこに付された商標(マーク)によって判断できるということです。
この状態を、商標が識別力を発揮している、などといったりします。
「この商品は、品目は同じでも他の商品とは違うぞ!」とマークが訴えかけているのです。
なぜ商標登録するのか

ところが、何ら法規制がないと、この信用に便乗して(そして手っ取り早く一儲けしようとして)、勝手に他人様のマークを使用する輩がでてきます。
そうなるとどうなるでしょうか。
マークを信用して買ってみたら、すぐに壊れてしまう粗悪品だった、あるいはそこまでいかなくとも、出所が違っていた(実際に製造販売した会社が、マークが示す本来のところと違っていた)、などという事態が生じかねません。
これではお客も損害を被るし、マーク(商標)の信用もガタ落ちです。
ご存じのように、信用とは築き上げるのに長い年月と大変な労力が要ります。
一方、地に落ちるのは、あっという間です。しかもその回復は、これまた至難の業。
つまり、一般の公衆も、本来の商標の所有者も大変な事態になってしまいます。
商標登録制度は、この信用を通じた公衆の利害(公共性)という点をも重視しています。
言い換えれば、登録を通じて商標に込められている信用を守ろうとするのです。
そこでは、商標の所有者だけではなく、一般の公衆をも保護していきます。
なお、商標登録の申請をする際には、登録申請しようとする商標とあわせて、これを付するところの商品・役務をもセットで指定していきます(ですので、指定商品・指定役務といいます)。
この指定商品・指定役務とセットで登録商標を他人が(無断で)使用すると、商標権侵害でアウト!となります。(異なる商品等に同じマークを用いても侵害にはなりません。)
商標の識別力が発揮され得る具体例

ここでは、商標の識別力について、例を挙げて簡単に解説しておきます。
皆さんが、果物屋さんを営んでいて、りんごを売っているとします。
そこで指定商品「りんご」に対し商標として「リンゴ」を考えました。
どうですか。この商標「リンゴ」は識別力を発揮できそうですか。
「リンゴ」というネーミングは、果物の「りんご」の一般的な呼び名です。
これでは、ネーミングとしてはありきたり過ぎて識別力の発揮は期待できませんね。
また、仮に登録になってしまえば、りんごを売っている他所の果物屋さんは、皆、商標権侵害になってしまいます。
つまり果物屋さんは「リンゴ」の名称を使えず、果物のりんごを販売できなくなってしまうのです(りんごを「バナナ」とか「トマト」などと偽って売るのはマズいですよね)。
ですので、こういう、ありきたりのネーミングは商標登録できません。
これに対して、もしパソコンを製造販売していたとして、指定商品「電子計算機(ここではパソコン)」、商標に「アップル」を考えたとします。
商品「パソコン」に対し、ネーミングは「アップル(リンゴ)」。オシャレですよね。
これで世間に知れ渡れば、確かに、パソコンで「アップル」といえば「あの💻(パソコン)だ!」となりますよね。
商品との関係で識別力が生じてくるのです。
他にも、同様に、例えば菓子類で、指定商品「チョコレート」に商標「チョコレート」としても、識別力が生じることはありませんし、商標登録にもなりません。
指定商品との関係でありふれているネーミングだからです。
でも指定商品「電子計算機(パソコン)」に商標「チョコレート」なんてどうですか。
なんかイケそうな気がしませんか?
とまぁ、こんな具合です。
商標の登録要件について

最後に登録要件についてコメントします。
先ほど商標の識別力の話をしました。
この識別力が備わっていることが登録の本質的な要件です(商標法第3条)。
また、これとは別に様々な登録要件が課されています(商標法第4条)。
これらに一つでも該当すると登録にはなりません。
いくつか具体的に挙げると
- 公序良俗に反するもの。要するに「不快だ!」「けしからん!」などとなってくるもの
- 例えば指定商品「ビール」に対して「ワイン」などと品質や内容を誤認させるもの
- 登録されていない有名な商標(周知商標)で、同じような指定商品等について使うもの
- 著名な商標で、商品等の出所を混同してしまいそうなもの
- 同じような指定商品等について既に登録されている商標
どれも登録にふさわしくないものばかりですよね(どれも公益に反したり、信用を損ねたりします)。
もし仮に、3番目の規制が無ければ「しめしめ、この有名な名称は商標登録してないぞ。よし、登録して高く売りつけてやろう!」なんていう人がでてきそうです。
なお、特に登録していない商標との関係で注意しておきたい点が一つあります。
それは商標の世界では、基本的に登録は早い者勝ちということ!(特許も同じです)
もちろん登録すべきでないマークについては上記の通り規制されているのですが、完ぺきではありません。
特許庁審査官による過誤登録はあり得るのです。
この場合は、事後的に異議申し立てや無効審判制度を利用して過誤登録を消していきます。
ただし、こうした事後的な手続きは結構面倒なので、やはり「これぞ!」という商標はしっかり登録しておくことが大切です。

商標の識別力と登録要件:まとめ

指定商品等との関係で識別力を発揮し得るもの、それが商標です。
しかもそれは、そこに信用が蓄積されているからこそ、その本領を発揮できるのです。
そしてその信用を保護し一般公衆の利益を守るのが商標の登録制度です。
こうした点を中心に、商標の本質と商標登録について解説してきました。
今回の記事を参考しながら商標についての理解を深めていただけたらと思います。

