弁理士は理系を中心に人気のある資格です。
開発や知財関連の仕事をしている人の中には、自分も取得したいと思う人もいるでしょう。
ですが、この資格試験は大変な難関です。
そのため働きながら目指せるのか、色々と不安や懸念材料がでてきます。
結論的には十分可能なのですが、その道のりは決して安易なものではありません。
目指したはいいが、いつまでたっても取得できず、多くの時間を無駄にしてしまった、なんて絶対避けたいですよね。
そこでこの記事では、働きながら弁理士を目指せる理由及び受かるためのポイント4つを解説していきます。
筆者は公認会計士資格を取得後、弁理士試験に取り組みました。
そうした背景から弁理士受験では、会計士実務及び特許実務の掛け持ち状態でした。
特に一時期は決算監査と短答が重なり、心身ともに相当きつかったのを覚えています。
それでも(会計士試験と異なり)弁理士には計算科目がなく、しかも短答に受かれば負担が軽くなるため、働きながらでも十分合格できると感じています。
弁理士資格は働きながら取得するのが一般的

先ずは弁理士試験合格者の職業別内訳をみています。
職業 | 人数 | % |
---|---|---|
会社員 | 97 | 48.7 |
特許事務所 | 54 | 27.1 |
公務員 | 13 | 6.5 |
教員 | 0 | 0.0 |
法律事務所 | 2 | 1.0 |
学生 | 7 | 3.5 |
自営業 | 5 | 2.5 |
無職 | 15 | 7.5 |
その他 | 6 | 3.0 |
計 | 199 | 100.0 |
この統計によれば、会社員、特許事務所を中心に、8割以上の人が働きながら合格を果たしています。
他方、無職は1割もおりません。受験に専念している人は少数派となります。
弁理士試験の都市伝説~無職だと受かりにくい?~:
特許庁の弁理士試験統計をよくよく見ると、社会人の合格状況(合格率)は学生や無職に比べ必ずしも悪い結果にはなっていません。むしろ受験専念組の方が厳しいような感じすらします。
また半ば都市伝説ですが、口述試験では無職の受験生の(試験委員に対する)心証が悪くなる、なんて噂もあったほど。
様々な仮説や推測ができますが、働きながら=受験上不利、の図式こそ都市伝説のような気もしてきます。
弁理士は働きながらでもなれる理由

- 現実的に多くの人が働きながら弁理士になっている
- 今日では働きながら目指せるメソッドが確立している
- 免除制度の利用により負担を減らせる(論文試験)
大部分の人が働きながら弁理士資格を取得しているのは先の通りです。
しかも今日では、社会人でも効率的に勉強できるよう、受験予備校を中心に教材やカリキュラムが工夫されています。
試験が徹底的に研究し尽くされており、昔のように試行錯誤して労力を無駄にすることは殆どありません。
さらに特筆すべきが免除制度です。
短答試験、論文試験、どちらも合格すれば2年間は免除されます(論文の選択科目は永続的に免除)。
特に短答試験に合格すれば、論文試験に専念できるのですが、
選択科目免除制度も利用すると、なんと論文試験は「特許・実用新案」「意匠」「商標」の3科目のみとなります。
なお、この3科目については、各法律の全体的な構成が似ており、これまた効率的に勉強できるようになっています。
弁理士はどちらかというと短答の方が厳しいので、この短答を乗り越えれば、最終合格はかなり近いと言えます(負担も一気に軽くなる!)。

働きながら弁理士を目指す長所・短所

働きながらの長所
- 金銭的経済的に困ることはない
- キャリアに空白期間をつくらないで済む
- 実務を経験できる
働きながらの一番のメリットは経済面です。
またそれと並ぶ大きなメリットが、経歴に空白期間をつくらなくて済むこと。
実務の勉強ができたり、社会経験を積むことができます。
とにかく企業であれ事務所であれ、実務経験や社会経験はできるだけ若いうちに積んでおくべきでしょう。
試験は30代、40代でも十分やれますが、明細書作成実務などは年齢が高くなると厳しくなっていきます。
特に事務所就職に際して、無職で受験に専念したり、先に資格を取得することに対して否定的な所長弁理士もいますので注意が必要です!
とにかく、今の試験制度は昔の旧試験に比べると遥かに負担は少ないので、働きながらでも(楽勝ではないですが)十分こなしていけるはずです。
働きながらの短所
- 勉強時間が十分に確保しづらい
- 仕事のストレス&周囲との人間関係
- 仕事と勉強の両方が中途半端になるおそれ
- 実務と試験勉強は別物
とはいえ働きながらの勉強は想像以上にハードです。
勉強時間の捻出もさることながら、仕事や人間関係のストレスも少なくないでしょう。
周囲との関係も気になりますね。
例えば、自分だけ定時で帰る、など。
やり方を誤ると、仕事も勉強も中途半端になりかねません。
最悪、受験勉強自体が無駄に終わってしまう一方、会社や顧客等にも迷惑をかけてしまう、なんてことも。
そこで、当たり前と言えば当たり前なのですが、多くの方が仕事を優先させようとします。
ですが、これまた、勉強がうまく進まないことの口実になってしまうおそれが出てきます(自然とそうなってしまうのです)。
試験勉強と実務は別物!
弁理士試験の厄介なところの一つです。
もちろん両者は知識的に関連してきますが、実務的視点は受験上、弊害の方が大きいような気がします(後述)。
また、逆に、弁理士試験の勉強は事務所での実務に殆ど役立たない。
特に明細書作成の習得は大変で、弁理士試験との両立は相当厳しいものが予想されます(最初の実務1年目は試験勉強どころではないと思う)。
指導者や事務所にもよりますが、人によっては相当の心理的ストレスまでをも抱えることになるでしょう。

働きながら弁理士を目指すことのポイント4つ

予備校(通信講座)の活用
とにかく働きながらでは勉強の効率性が求められます。
この点については受験予備校が合格のためのメソッドを確立していますので、これを活用していきます。
ここで「時間的に予備校の授業に参加できないかもしれない」という方、ご安心を!
予備校まで直接通学する必要はなく、オンライン受講等の通信講座で十分です。
ただし、アウトプット(特に論文答練・模試)だけは予備校で実際に受験されることをお勧めします。
答練は、講座の取り方にもよりますが、週1~2回(各3時間)ぐらいですので、十分こなしていけるはずです。

早朝やスキマ時間の活用
働きながらの受験では、いかに勉強時間を確保するかも大切なポイントです。
そこで活用したいのが朝の時間帯と通勤時間等のスキマ時間。
具体的には、少し早く起床して出勤前に1時間勉強するのです。
仕事が終わってからの夜の時間帯より遥かに集中できますし、勉強に余裕を持たせることができます。
また、通勤時間等のスキマ時間は知識の暗記や復習に当てます。
アプリを活用して予備校の授業を倍速視聴するのもよいでしょう。
特に暗記モノを机上でやるのは非効率的です。
なので、こうした単純なインプットはコマメにスキマ時間を活用するのが時間節約のコツとなります。
暗記のコツをもう一つ:忘却曲線を応用する
暗記モノについてですが、弁理士試験では短答知識を中心に膨大なものとなります。
他方、忘却曲線によれば、覚えても次の日は半分以上、1週間後には4分の3以上忘れます。つまり一度で覚えることは困難です。
そこで繰り返し復習するのですが、
1回目の復習は次の日、2回目の復習は1回目の復習から1週間後、3回目の復習は2回目の復習から1月後にやる
という具合に後半になるにつれ間隔をあけていくと頭に定着しやすくなります。
働いているからこそ受験は長引かせない
働きながらの勉強で特に注意したいのが、仕事も勉強も中途半端になってしまうこと。
ですので、実務が落ち着き、かつ自分に適性がある、と確信できた時点で、集中的に取り組むことをお勧めします。
それも1年半から2年半ほどで確実に最終合格する覚悟で取り組むのです。
特に受験勉強は結構、同じことの繰り返しであり、3年も過ぎるとマンネリ感が出てきます(これを打破しようと、マニアックで間違ったやり方に走ってしまうベテラン氏もいる)。
しかもこの3年を過ぎると、受験自体が”毎年のお祭り”と化し、惰性でやり続けるが、今更やめられない、などと言った状況に陥りかねません。
さらに言うと、ご家族をはじめ、周囲との関係にも影響してきます。
例えばゴールデンウイークは短答の詰込みに潰れますが、こうしたことが5年、10年続く、なんて悲惨ですよね。
仕事を続けていれば取り敢えず生活はできますが、厳しい結果が毎年の行事のように繰り返されます。

企業勤務の場合は覚悟が必要~会社へのコミットメントかorプロとして生きるか~
特許事務所勤務の場合は通常、受験勉強に配慮があるはずです。
定時で退社し答練等の予備校に通うことも先ず問題ないでしょう。
問題は企業勤務。
資格取得に理解のある社風があればよいのですが、会社によっては難しいかもしれません。
弁理士資格は代理人資格であって、企業勤務(顧客)にあっては必要ないのです。
また上で述べた通り、日々、寸暇を惜しんで勉強することになりますし、短期で成果を出すために定時で帰ることになります。
会社関係の行事や会合等は原則全て辞退です。
こうしたことから、会社にもよりますが、人事評価や人間関係に影響が出てきても不思議はありません。
もちろん上手く会社との関係を維持できれば理想的ですが、そうでなければ転職して資格取得に理解のある職場に移ることも一考です。
いずれにしても、今の会社へのコミットメントを断ち切るぐらいの覚悟があるかを、今一度ご自身に確かめた方がよいでしょう。
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1年目は受験に専念し、その後は働きながら弁理士を目指す
私個人的には(学生を除き)受験浪人はあまりお勧めできないのですが、一方である種の折衷案も考えられます。
具体的には1年以内を目途に受験に専念し、その後就労するのです。
1年目の目標は短答合格。
短答に合格できれば、(2年間の免除もあり)論文に専念できます。
もちろん、優秀な人でしたら論文や口述まで含めて最終合格を十分狙えるのですが、
難しいようなら短答合格を目途に、その後は働きながら勉強するスタイルに変えていきます。
今の論文試験は大変シンプルなうえ(特に選択科目免除の人)、内容的にも短答の勉強が生かされます。
こうすることで働きながらでも負担はかなり軽くなるはずです。
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最後に

働きながら弁理士を目指すことについて解説してきました。
確かに多くの人が働きながら弁理士を目指し、これを実現しています。
ですが、だからと言って働きながら容易に資格取得ができるわけではありません。
むしろ様々な懸念材料や障壁を乗り越えて結実したものと言えます。
工夫しなければならないこと、目的達成のために諦めなくてはいけないもの、色々とあるのです。
ですので、働きながら弁理士を目指そうとする人は、先ずはご自身の環境を把握のうえ、どこまで勉強できるか見極めていただきたいと思います。
以上、参考にしていただけたら幸いです。
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